第1種換気の熱交換率を実測|ピュア24セントラルはカタログ通りの性能を発揮しているか調べてみた

Raspberry Pi
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今回はトヨタホームの第1種換気設備、ピュア24セントラルがカタログ通りの熱交換率を発揮しているか調べてみたので紹介します。

自動車だとカタログ燃費が25km/lとかかれていると、実使用だと15km/lくらいだろうと考えるのですが、知識や経験があまりない住宅設備だとカタログに記載されている性能が出ているものだと思っていましたが、よく考えるとカタログに記載されている性能は最高値の可能性が高く、実際の使用環境では多少性能が落ちていることが考えられます。

そこで、ホームページで熱交換率82%と紹介されているトヨタホームの第1種換気設備の熱交換機が実際どれくらいの熱交換率で動作しているか実測してみました。

かなりマニアックな内容ですが、建物からロスする熱エネルギーのなかで換気による損失は全体の30%程度を占めているので、換気設備の熱交換率は冷暖房の光熱費に大きく影響します。

今回、換気設備の熱交換率の測定を換気設備の風量を切り替えたり、室内温度を変化させて何パターンか実測しているので、これからお家を建てられる方は、どのような場所に換気設備を設置すると換気による熱損失が低減できるかまた既にお家を建てられている方には、どのような使い方をすると換気による熱損失が低減できるかを参考にして頂ければと思います。

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第1種換気設備とは

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これからお家を検討される方だと、第1種換気システムが何なのかわからない方もいると思うので、まずは換気システムについて簡単に紹介します。

2003年の建築基準法改正により、住宅の24時間換気が義務付けられた為、お家を建てると施主の希望に関わらず24時間換気設備を設置する必要があります。

なぜ住宅の24時間換気が必要かというと、この法律ができた当時、住宅建材に含まれるホルムアルデヒドによる健康被害が社会的な問題となっており、そのシックハウス対策として24時間換気が義務付けられるようになりました。

「最近のお家は気密性が高く自然には換気されないので24時間換気が必要」という文言を聞くことがありますが、これは義務化になった直接的な理由ではありません。

また最近だとコロナウイルスの流行で室内の換気が重要視され、ウイルス対策としての24時間換気を訴求しているハウスメーカも多いと思います。

換気設備の種類

一般的な住宅に採用される換気設備には、第1種換気と第3種換気の2つがあり、第1種換気は給気・排気の両方にファンを使って強制循環させる換気設備になります。

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この第1種換気設備は給気と排気を1箇所の装置でおこなう設備が多い為、熱交換素子を使って排気と給気の温度差を縮めて循環する換気設備が一般的です。

給気する空気の温度を室内の温度に近づけて循環できることから、上のイメージ図だと真冬で外気温が冷たくても室内へ取り込まれた空気はある程度暖められるので、室内温度が下がりにくく換気による熱損失が低減できるメリットがあります。

今回の記事では詳しく紹介しませんが、一般的な住宅で採用されることが多い第1種換気設備と第3種換気設備それぞれの換気の仕組みやメリット・デメリットについては、別の記事で詳しく解説しているので、気になる方はリンク先の記事を参照してみて下さい。

またトヨタホームでは「ピュア24セントラル」という設備が第1種換気設備にあたります。
ピュア24セントラルについても、別の記事で詳しく紹介しているので、こちらも気になる方はリンク先の記事を参照してみて下さい。

熱交換器

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こちらの写真は我が家の第1種換気設備(ピュア24セントラル)に使われている熱交換素子(熱交換器)の写真です。

正式名称は「全熱交換素子」と呼ばれ、温度(顕熱)と湿度(潜熱)の両方を交換する素子になっています。

熱交換素子の表面をよく見て頂くと、段ボールの断面のようになっていることに気付くと思います。
この断面の隙間を、屋外からの給気は手前から奥に、室内からの排気は上から下に、直交して通過し熱交換する仕組みになっています。

また全熱交換素子は紙や不織布など繊維状の素材でできていて、繊維の隙間から湿度も交換されることから、冬場は室内の乾燥をやわらげ、梅雨の時期は除湿効果が望めるメリットがあります。

但し、ニオイや汚染物質(VOCやCO2など)も通過してしまう可能性があるのでトイレやキッチンへの設置は不向きです。また素子を水洗いすることができないので定期的な交換が必要になります。

トヨタホームのピュア24セントラルの場合、熱交換素子は7~10年での交換となっています。

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一般的な住宅に採用される熱交換素子の80%以上はトヨタホームで採用されているモノと同じ直交流形の熱交換素子ですが、近年開発された対交流形の熱交換素子は直交流形と比較して熱交換率に優れ換気による熱損失をより抑えることができるので、今後は対交流形素子への切り替えが進んでいくと予想されます。

熱交換率の実測方法

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それでは本題の熱交換率の測定方法について紹介していきます。

トヨタホームのホームページでは、熱交換率について上の図のように説明されています。

外気温0℃、室内温度20℃の状態で、熱交換後に給気グリルから吹き出す空気の温度が16℃となり、本来20℃→0℃になるところを16℃回収できた。16÷20=80%の熱交換率と説明されています。

このことから、熱交換素子を通過する前の室内温度と室外温度、熱交換素子を通過した後の給気温度を測定すれば、熱交換素子の熱交換率を計算で求めることができます。

熱交換素子周辺の温度測定方法

今回も熱交換素子周辺の温度はRaspberryPiと温度センサ「DS18B20」を使って測温を実施します。

ラズパイとDS18B20を使った温度測定環境の構築方法について、別の記事で詳しく解説しているので、気になる方はリンク先の記事を読んでみて下さい。

温度センサ「DS18B20」を熱交換素子を通過する前の室内側と屋外側、熱交換素子を通過した後の給気側の3箇所に設置します。

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ポイントは熱交換素子には直接触れずに空間の空気の温度が測れるように設置すること。

熱交換素子に触れてしまうと、熱交換素子自体の温度を測定してしまい、正しい熱交換率が算出できない可能性があります。

この写真は熱交換素子通過後の給気温度を測定するポイントです。奥に見える穴の先に給気ファンがあり室内の給気グリルにダクトでつながっています。

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こちらは熱交換素子通過前の室内温度を測定するポイントです。

また熱交換素子通過前の室外温度を測定するセンサは給気の集塵フィルタに取り付けており、全ての測定ポイントが熱交換素子通過前後の直近の空気温度を測定できる位置に取り付けました。

このように熱交換素子直近の空気の温度を測定することで、ダクトを通過する間に逃げる熱などの影響を受けず、純粋に熱交換素子の熱交換率を算出できるようにしています。

実測温度から換気損失を計算

温度だけでも熱交換率を算出することはできますが、今回は省エネ観点で換気設備の最適な設置場所や稼働方法も検証したいので、換気損失の絶対値を算出してから熱交換率を計算していきます。

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上のイメージ図のように、各測定箇所の温度をT1~T3とおきます。

まず熱交換素子がなく換気による熱が全て損失になる場合の熱エネルーギーを求めます。

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次に熱交換素子があり熱交換されている状態で損失する熱エネルギ-を求めます。

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①と②の差から熱交換素子で熱交換されたエネルギーを求めます。

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最後に①全損失と③熱交換エネルギーから熱交換率を求めます。

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熱交換率の実測結果

測定条件

測定結果を紹介する前に、我が家の換気設備の設置場所、風量設定などの測定条件を紹介させて頂きます。

トヨタホームの換気設備は1階と2階で独立していて、今回は2階の設備を使って温度測定を実施しています。

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我が家の2階の間取りはこのようになっていて、換気設備の本体は納戸の中(赤枠の箇所)に設置されています。

また我が家はスマートエアーズ(トヨタホーム全館空調)を採用しているので、どの部屋でも基本的には同じ温度になりますが、納戸はスマートエアーズの吹き出し口を設置していないので、居室空間と比べて温度が低くなっています。

換気設備を設置する場所の室内温度によって熱交換率が変化するか調べる為、納戸の扉を閉めた状態(室内温度:低い)と納戸の扉を開けた状態(室内温度:高い)の2水準で測定を実施します。

またトヨタホームの第1種換気設備は換気量を2段階で切替ができるので、風量:強(97m/s)と風量:弱(52m/s)の2水準も測定します。

ちなみにトヨタホームの推奨風量設定は、冬は弱、春から秋は強となっているので、今の時期は弱に設定しています。

測定は0時~24時のまる1日測定して平均熱交換率を求めます。

それでは、1つづつ測定結果を紹介していきます。

室内温度:低、風量:弱

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これは我が家の冬期の一般的な状態です。

給気温度(外側)は屋外の温度と同じになります。この測定を実施したのは1月なので平均4.4℃とそれなりに寒い環境です。

また排気温度(内側)が納戸の室内側の温度になり、平均13.1℃とやはり空調が効いていない部屋なので室内にしては温度が低い状態です。

そして給気温度(内側)が屋外から吸い込んだ空気が熱交換器を通過した後の温度になります。深夜の外気温は2℃くらいですが、熱交換器通過後は10℃程度になっており、しっかり熱交換されていることが分かります。

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2つ目のグラフは実測した温度データから熱損失と熱交換率を計算した結果です。

平均排気温度(内側)13.1℃
平均給気温度(内側)11.1℃
平均給気温度(外側)4.4℃
平均損失133.6kJ
平均熱交換エネルギー437.6kJ
平均熱交換率76.7%

グラフだけだと分かりにくいので、1日の平均値を表にまとめたのがこちらのデータです。

意外と言うとトヨタホームに失礼かもしれませんが、ホームページに記載の熱交換率82%とそこまで大きな乖離のない平均熱交換率でした。

室内温度:高、風量:弱

続いては納戸の扉を開けっぱなしにして室内温度を高めたケースになります。

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「室内温度:高い」と書きましたが扉を開けてもあまり室温が上がらず、室内の平均温度が15℃と居室に比べると寒い環境ですが、扉を閉めている状態より2℃程高いので、この違いで熱交換率に影響があるか確認します。

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平均排気温度(内側)15.1℃
平均給気温度(内側)12.5℃
平均給気温度(外側)4.7℃
平均損失169.7kJ
平均熱交換エネルギー508.3kJ
平均熱交換率75.1%

平均熱交換率は、室内温度が低い場合とほとんど変わらない結果となりました。

このことから室内外の温度差の違いによる熱交換率への影響は少ないようです。これは1日の熱交換率のグラフで、外気温の低い夜と高い昼であまり熱交換率の変化がないことからも温度差が熱交換率に影響が少ないと言えそうです。

但し、外気温[平均吸気温度(外側)]が同じ場合、室内温度が高い方が室内外の温度差が大きくなるので、平均熱交換率が同じでも、損失する熱エネルギーは大きくなります。

室内温度:低、風量:強

最後は換気設備の風量:強(97m/s)のケースです。

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室内温度[平均排気温度(内側)]と室外温度[平均給気温度(外側)]は、1つ目の室内温度:低、風量:弱の条件と差がない環境になります。

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平均排気温度(内側)13.6℃
平均給気温度(内側)10.1℃
平均給気温度(外側)5.8℃
平均損失402.9kJ
平均熱交換エネルギー493.4kJ
平均熱交換率55.2%

風量:強の場合は平均熱交換率55.2%と、風量:弱の場合と比較して熱交換率が大きく低下しました。

さらに風量が52m/s→97m/sと約1.9倍になるので、平均損失も169.7kJ→402.9kJと2.37倍になっています。

この損失差は光熱費に直接影響していくるので、次のまとめの項目で金額にして、どの程度の差が出るのか計算してみたいと思います。

実測結果まとめ

温度:低,風量:弱温度:高,風量:弱温度:低,風量:強
平均熱交換率76.7%75.1%55.2%
平均熱交換エネルギー437.6kJ508.3kJ493.4kJ
平均損失133.6kJ169.7kJ402.9kJ
1日の損失エネルギー0.9kWh1.1kWh2.7kWh
1ヶ月の消費電力6.7kWh8.5kWh20.1kWh
1ヶ月の電気代167.0円212.1円503.7円

換気損失の絶対値がイメージしやすいように、1ヶ月の電気代に換算してみました。

熱エネルギーを消費電力に換算する際のエアコンの効率(APF)は4で計算しています。
また電気代の単価は25円/kWhで計算しています。
また今回は1フロアーのみの換気損失の計算結果なので、2階建ての場合は損失が2倍になると考えて下さい。

1ヶ月の電気代にして167円と504円(2階建ての場合、334円と1008円)の差が大きいと考えるか小さいと考えるかは、それぞれの価値観なので何とも言えませんが、風量:弱(52m/s)、強(97m/s)で風量差以上に熱損失が大きくなることが分かりました。

この分野に関して専門的な知識を持っていないので、風量が強いと熱効率が下がるメカニズムについて正確に解説できませんが、イメージ的には熱交換素子の中を通過する空気の速度が影響しているのではないかと思います。

熱交換素子のサイズが同じで換気量を多くすると流れる空気の速度が上がります。そうするとエネルギーを持った空気が熱交換素子の中を通過する時間が短くなり、熱交換できる期間が減るのではないかと推測しています。

ちなみにこの熱損失と電気代は平均外気温が5℃前後の私の住んでいる地域での数値なので、もっと寒い地域の場合、室内との温度差が大きくなり同じ熱交換率でも損失は増加しますし、逆に室内外の温度差が少ない地域だと損失は低減します。

換気損失を低減する方法

換気量調整による損失低減

先ほどの実測結果から換気による熱損失を低減する簡単の方法は、室内外の温度差が大きいときは換気量を減らすことが、もっとも効果が大きいと言えます。

ただ、むやみやたらに換気量を減らしてしまうと、換気設備の本来の目的である室内のCO2やVDOなどの汚染物質を排出する役割が損なわれ、健康被害に繋がる可能性があるので気を付ける必要があります。

別の記事で紹介していますが、24時間換気設備はハウスメーカのホームページや住宅展示場で「2時間で家の中の空気は全て入れ替わるので常に新鮮」と紹介されていますが、この文言からイメージできるほど室内の空気は新鮮にはなしません。

室内に暮らしている人の人数や間取りによっては、簡単にCO2濃度が1,000ppmを超えてしまうこともあるので、換気量の調整をする場合は注意しながら実施してください。

ちなみに我が家の換気設備は風量:弱でも建築基準法で定める換気量は確保できますが、こちらの記事で紹介しているように、風量:弱だと寝室のCO2濃度が適正値を超えてしまいます。

設備の配置場所による損失低減

今回の実測では室内温度の違いで熱交換率に差が出ないとの結果でしたので、熱交換率に差が出ないのであれば、換気設備は家の中でできるだけ、温度が低くなりやすい場所に設置した方が損失を低減できます。

この観点から我が家のように普段空調を効かせることがない納戸の中に設置したり、家の中で比較的温度が下がりやすい玄関や玄関に併設したシューズクロークに設置するのが良いと思います。

シューズクロークだとニオイも排気してくれるので一石二鳥ですが、冒頭で紹介した全熱交換式の熱交換器の場合、ニオイも交換される可能性があるので、この場合はシューズクロークは避けた方が良いと思います。

我が家の1階の換気設備は洗面所兼脱衣所に設置してあり、普通の家であればお風呂に入るとき以外は空調を効かせる必要がない場所なので、損失の観点で第1種換気設備の設置場所に適しています。

但し我が家は全館空調を設置していて、洗面所にも常に空調が効いているので、こういう場合は熱損失が大きくなってしまいます。

これは換気設備に限った話ではないですが、住宅設備は他の設備と組み合わせて最適な設置場所を考える必要があります。

まとめ

今回は第1種換気設備の熱交換率について実測して調べてみた結果を紹介しました。

風量が弱の設定であればトヨタホームのホームページで紹介している熱交換率82%と比べても大きな乖離はなかったので、自動車の燃費と違って周囲環境の影響を受けて効率が大きく変わるといったことはなさそうです。

但し、風量を強にすると熱交換率が20%程度下がったので、使い方による影響は大きいようです。

風量が弱の状態だと建築基準法に定められている必要換気量がギリギリ確保できる状態なので、ホームページで紹介されている熱交換率は法令は守りつつ最大限効率が良い状態の数値なのだと思います。

また冒頭で紹介しましたが、最近は「対交流型」という熱交換率を向上させた熱交換素子も普及し始めているので、損失をできるだけ抑えたいと考えている人は効率の良い素子を選ぶことをお勧めします。

今回紹介した内容以外にも換気設備に関する記事を書いているので、気になる方はリンク先の記事も読んでみて下さい。

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