今回は「マジで寒い!?冬のトヨタホーム」第3段、前回トヨタホームの断熱仕様について紹介する記事の中で「省エネルギー対策等級4技術基準」と比較して断熱性能が不足している箇所が何カ所かあると紹介しました。前回の記事をまだ読んでいない方はこちらのリンクからトヨタホーム断熱仕様の紹介記事も読んでみて下さい。
今回は断熱性能が不足している箇所から本当に熱が逃げているのか!?実際に家の中の色々な箇所の温度を測定し、それぞれの箇所からどれくらいの熱が逃げているか調べてみた検証記事になります。
測定はいつものようにRaspberryPiを使って実施していきます。以前の記事で室内の温度環境を測定するのに「DHT22」というセンサを使って測定する方法を紹介しましたが、今回は壁や天井などの温度を測定する為に別のセンサを準備して測定を実施しているので、まずは今回使用するセンサやRaspberryPiを使った測温環境の構築から紹介していきます。
続いて測温結果の紹介と測温結果からお家全体での熱損失を計算し、トヨタホームのお家が、どの箇所からどのくらいの熱が逃げているか紹介させて頂きます。
仕様上で断熱性能が弱い箇所は、お家全体で考えても本当に熱環境的にネックになっているのか!?実際の測温結果を基に紹介していきたいと思います。
RaspberryPiを使った温度測定
まずは今回の測温環境から紹介していきます。「ラズパイの話は興味ないです。どこが冷たいのかだけ教えて下さい」って方は、この項目は読み飛ばして次の項目から読み進めて下さい。
今回測定に使用する温度センサはこちらの「DS18B20」というセンサです。
今回は壁や床などの温度を直接測定する為このセンサを選びました。このセンサは1-Wireという通信で温度データを送信していますがRaspberryPiが1-Wire通信に対応している為、簡単に測温環境が構築できます。
また1-Wireはマスタースレーブ通信で1つのバス上に複数のセンサ(スレーブ)を接続することができるので、センサを複数個準備すれば1回の測定で複数箇所同時に測温でき、今回の目的である壁や床など家の中の色々な箇所の温度を測定するのに適しています。簡単に最大スレーブ数が調べられなかったので1つのバス上に何個のスレーブまで接続可能かは不明ですが今回は4つの温度センサを使って測定を実施しています。
1-Wireはその名の通り1本の通信線だけでデータの送受信が可能(正確にはGNDの接続が必要なので最低2本)で、最長約500mの距離まで通信が可能な、自動車の中で使われるLIN通信と似た特徴があります。
センサはAmazonで5個セット1,299円で売っている物を購入しました。5個中1個は初期不良なのか通信ができなかったので4個の温度センサを使って測温をしています。
今回もセンサをRaspberryPiに接続する為にちょっとした電子工作をしているので作業内容を簡単に紹介します。
まず、購入した温度センサにコネクタを接続します。今回購入した「DS18B20」は防水処理をしてワイヤが接続してありますが、電線の終端が切りっぱなしになっているので使いやすいようにコネクタを接続しておきます。コネクタのターミナルを圧着工具で付けて3端子のコネクタに挿入します。
次に4個のセンサを1つのバスに接続する為の基板を制作します。と言っても3端子のターミナルを並べて基板の裏側を半田付けしているだけです。1-Wireのバスラインは2.2kΩの抵抗で電源(3.3V)にプルアップする必要があるので、この基板上にプルアップ用の抵抗も半田付けして接続しています。
最後に温度センサとRaspberryPiを接続する為の延長ワイヤを制作します。今回は壁や床など色々な箇所の温度をまとめて測定したいのでセンサからRaspberrPiを接続する3mの延長ワイヤを作成しました。
あとは温度を測定したい箇所にセンサを貼り付けでワイヤをRaspberryPiに接続すれば測定環境の準備は完了です。熱損失を計算する際に室内の温度も必要になるので以前準備した「DHT22」も一緒に接続します。
次にプログラムの準備です。1-Wireの通信はPythoでプログラムを作らなくてもRaspberryPiの設定で1-Wire通信を有効にして再起動すると自動で通信が開始され接続されているセンサを認識し、センサから送られてきたデータが特定のディレクトリにテキストファイルとして保存されます。
1-Wireのデバイスはそれぞれ個別のIDが付与されていて1つ1つのセンサを識別できるようになっています。但しセンサその物を見てもIDは分からないので、センサを1個づつ接続して通信させ、それぞれのセンサのIDを確認していきます。
複数個センサを接続する場合は、どのセンサがどのIDなのか事前に調べておかないと測定したデータがどの箇所の温度なのか分からなくなるので、事前にIDを確認しセンサにメモしておきます。
今回、センサからの温度情報は自動的にテキストファイルに保存されるので、Pythonで作成するプログラムはテキストファイルを開いて温度情報が書かれている部分を抜き取るようなプログラムになります。
このプログラムもネットに情報がたくさん落ちているので有効活用させて頂いて、以前作成した「DHT22」で温度を測定するプログラムと合体させて30秒毎にDHT22とDS18B20で測定した温度を記録するプログラムを作成しました。今回から温度データの記録をテキストファイルではなくCSVファイルに記録するようにしてみたので測定したデータをあとから解析する際に使いやすくなっています。またDS18B20は4つのセンサの温度をまとめて測定してCSVファイルに記録できるようにプログラム作成していてネットから得た情報をかなり加工しましたが、うまくプログラムを動作させることができ、だいぶPythonのプログラムにも慣れてきました。と言っても100行以下のプログラム規模ですが。
測温結果
それでは温度測定結果を紹介していきます。
– 21.01.09:測定方法を改善して結果を更新しました –
測定は外気温が最も低くなる0時~6時の6時間実施しています。また4箇所づつしか測温できないので数日に分けて測温していますが、いずれの日も外気温は-1℃~1℃と同等の条件での測温結果になります。
また、それぞれのセンサで微妙に温度誤差がありますが、事前に同じ空間の温度を測定し個々のセンサの誤差を補正した測定結果になります。
まず最初に紹介するのは窓と壁の測温結果です。
測定箇所は窓のサッシ部分とガラス部分、壁は裏側に鉄骨の柱があり高性能硬質ウレタンフォームで断熱されている部分と柱などがなく高性能グラスウール16K,100mmで断熱されている部分の2箇所を測定しています。
1つ目のグラフは実際に測温した温度データです。2つ目のデータは室内温度と各測定箇所の温度差になります。室内の温度はスマートエアーズ(全館空調)が稼働しているので15℃~17℃の間を推移していますが、各測定箇所の温度は室内温度に対して0.5℃~4℃くらい低い結果となっています。
外気温が約0℃なので外に面する壁や窓は外気に冷やされて室内の温度より低くなっており熱が奪われていることが分かります。想像していた通り窓ガラスの部分が最も冷たく平均で-3.6℃、次に窓のサッシ部分が平均で-3.0℃となっています。次に断熱材が薄くなる鉄骨の部分が平均で-2.7℃、断熱性能が十分確保できているグラスウール部分が平均で-1.0℃との結果になりました。
次は1階床の測温結果です。参考に内壁(屋外に面していない壁)も測温しています。
床は平均で-1.2℃との結果になりました。室内の温度を測定しているセンサが床から約60cmの高さで測温しているので純粋な床下への熱の逃げだけでなく、室内の冷たい空気が下に溜まり室内温度との差が大きく出ている可能性はあります。
また5時からスマートエアーズの暖房設定が22℃になり室内の温度は上昇しますが床は暖まりが遅いので室内温度との差が広がる結果となっています。
次は2階天井の測温結果です。
2階天井は平均で-0.6℃との結果になりました。先ほどの床とは逆で暖かい空気が天井近くに溜まっている為、本来よりも高いめの温度となり差が小さくなっている可能性があります。
熱損失を計算
次に先ほど測温した結果から建物全体でどの程度の熱が奪われているか計算してみます。
室内から屋外へ流出する熱量は上の図のように室内温度Taと壁の温度Twから求めることができます。
h(熱伝達率)は、自然対流の空気が1~10W/m²・Kと文献に記載されています。室内外の温度差や壁の長さ、また壁の方向が垂直なのか水平なのかによってh(熱伝達率)は変わってくるので、今回は仮に5W/m²・Kで計算してみます。
A(面積)は、計算しやすいように我が家をデフォルメした下図の外形の総2階のお家とします。
延べ床面積は125m²で、窓は1518サイズの窓を1階,2階共に4箇所設置しています。我が家は1518サイズの窓が6箇所と小さい窓が12箇所ありますが、1つ1つの窓の面積を正確に計算するのが面倒なので、1518サイズの窓を8箇所にデフォルメしています。柱は灰色の四角で示した部分でトヨタホーム最大サイズのユニットを5個連結した場合の柱位置になります。
この条件を使って窓のガラス部分から逃げる熱損失を計算すると以下のようになります。
Q=5W/m²・K(熱伝達率) × -3.6℃(窓ガラスと室内の温度差) × 19.5m²(窓ガラス8枚分の面積) = 348.5W
(計算式と結果が微妙に違っていますが、結果は面積や温度を四捨五入せずに計算した結果なので正確な値になります)
これと同じ計算を各部位ごとに実施した結果が以下になります。
– 21.01.09:再測定結果を使って熱損失の計算結果も更新しました –
換気による熱損失は以前トヨタホーム第1種換気設備を紹介した記事の中で計算した数値を引用しています。我が家はトイレと浴室も24時間換気扇が稼働しているので実質30%くらいしか熱交換できておらず第1種換気と言いつつ熱損失が大きい結果でした。
合計の熱損失が2684.7W、これをAPF=5のエアコンで暖房すると1時間あたりの消費電力は0.5369kWhとなります。我が家の暖房を使用していない10月の0時~5時の1時間あたりの平均電力が0.43kWh、暖房を使用している12月の同じ時間帯の平均電力が0.84kWhと0.41kWh増えていて、先ほど計算した0.5369kWhと近い値なので測温結果から求めた損失は、ある程度妥当な数値と考えられます。
先ほどの計算結果をよく見るお家の熱損失の絵に描いてみるとこんな感じになります。
よく見かける絵だと窓が50%~60%となっていて開口部からの熱損失が1番大きいと書かれている場合が多いですが、我が家の場合は壁からの熱損失が1番大きく、2番目は換気、3番目は窓と床が同じくらいで、1番小さいのが天井となりました。
以前、トヨタホームの断熱仕様を紹介した記事で床下の断熱性が「省エネルギー対策等級4技術基準」と比較して約半分しかないと紹介しましたが、「省エネルギー対策等級4技術基準」と比較して十分な断熱性能が確保できている外壁部分からの熱損失よりも小さく、建物の中で外気と触れる面積が圧倒的に広い外壁の断熱の重要性がわかります。
また必要以上に換気をしてしまっている我が家は換気による熱損失の割合が大きいのですが、以前紹介した寝室のCO2濃度測定の結果のように局所的に換気量が不足している部分があるので換気量を絞って熱損失を抑えるのは危険な可能性もあります。
逆に一般的に熱損失が大きいと言われている窓からの熱損失の割合は低い結果となりました。スペックが公開されていないトヨタホームのオリジナル窓の断熱性能が意外と良いんです!!と言いたいところですが、木造のお家と比べて他の部分の熱損失が大きいので相対的に割合が下がって見えているだけのような気もします。
熱伝達率を仮に5W/m²・Kとしているので熱損失の絶対値は実際と多少ズレている可能性はありますが全ての箇所で同じ熱伝達率を使用して計算しているので各箇所から逃げる熱の割合は大きくズレていないと考えられます。そう考えると我が家の熱損失の割合は一般的に言われている割合と大きくズレている印象です。窓の大きさや家の形、換気設備の種類などによって熱損失の割合は大きく変わりそうなので、お家の熱設計をする際は熱的にネックになっている部分や影響度の大きい部分をしっかり確認して対策する必要がありそうです。
まとめ
今回は建物の色々な場所を測温して実際どの部分から熱が多く逃げているのか調べてみた内容を紹介してきました。
トヨタホームでお家を建てる場合は断熱仕様が標準で決まっているので施主の方が断熱に関して何か選べることはあまりなく、この結果から断熱性の弱い部分を強化したりするのは難しいと思いますが、間取りを工夫し同じ床面積でも外気に触れる壁の面積を減らすことで熱損失を抑えるくらいはできると思います。
また最近だとオプションでトリプルガラスも選べるようになったようですが、全体の熱損失の割合から考えると費用対効果があまり良くないかもしれません。もしオール樹脂サッシが選べるようになってもトヨタホームだと寄与度が低すぎて採用するメリットはないと思います。
話は変わりますが、今回熱損失の計算の中で熱伝達率hに空気の自然対流の値として5W/m²・Kを使用して計算しましたが、強制対流の場合、熱伝達率が数倍~数十倍になります。なので同じ外気温でも風が吹いていると家からたくさんの熱が奪われることになります。
今回の測温結果では窓からの熱損失が他の箇所と比べて低い結果となっていましたが、測温した窓はシャッターを閉めた状態だったので窓に直接風が当たらず外壁より条件がよかったことが考えられます。シャッター自体に断熱性は無くてもお家の熱損失には影響している可能性があるので、次回はシャッターを開けた場合と閉めた場合の熱損失を比較してシャッターがお家の熱損失に影響しているか調べて紹介したいと思います。
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